第510回例会 会長タイム
もうすぐ2月です。梅の季節がやってきます。この時期に思い浮かべる与謝蕪村の句があります。「しら梅に明くる夜ばかりとなりにけり」です。蕪村は旧暦の1783年12月25日、現在の2月1日の未明に68歳で無くなりますが、死の前夜(24日)に弟子を枕元に呼んで病中の吟を書き取らせました。その3句の臨終吟の最後の句です。「初春(しょしゅん)」と題を置くべしと指示しています。そして眠れるごとくめでたく往生をとげたそうです。しら梅に明くる夜ばかりとなりにけり。来る日も来る日も軒端の白梅のところから夜が明けてゆく、夜の明ける気配と梅の開く気配を重ねて、幻想的な詩境のなかで生涯を閉じていった幸せな詩人でした。白梅に明けてゆく黎明が永遠に続くのです。「白梅」は浄土でもあり、もしかしたら理想の女性だったかもしれません。こんな美しい最期を遂げた蕪村ですが、その生涯は貧乏と借金苦に悩まされながら古典を学び、60歳を過ぎてから絶好機を迎えた俳人であり画家でした。晩年の文人画「夜色楼台図(やしょくろうだいず)」(重要文化財)は先日のNHKハイビジョンで放映されましたが、家々にともる明かりがほのぼのとした人間愛を感じさせ、堪能させていただきました。
蕪村とは反対に生涯多くの弟子に恵まれ、裕福に暮らした松尾芭蕉の辞世の句は「旅に病んで夢は枯野をかけ廻る」でした。悲壮感が漂っています。裕福でありながら悩み多き人生だったのかもしれません。往生際の悪い句です。やはり私は蕪村に引かれます。「しら梅に明くる夜ばかりとなりにけり」という心境で旅立ちたいと思います。
